2012年9月2日(日) 信濃毎日新聞
▼以下転載
田阪リカ(イラストレーター・エッセイスト、北佐久郡御代田町在住)
ジリジリと照り付ける太陽を肌で感じながら、今回向かったのは上田市上塩尻地区。盛んだった養蚕の名残の蚕室造りの家並みがあります。訪問先は旧北国街道沿いの大きな看板が目印の小岩井紬工房です。
明治、大正次代までは蚕種業を営み、昭和初期に織元となりました。上田紬として始めたのは昭和23年(1948)年ころ。初代の小岩井雅代さん(故人)は上田紬を語るには欠かせない人物というほど熱心だったそうです。現在は2代目で代表の武さん(71)、妻の律子さん(65)m長女のカリナさん(40)m長男で3代目になる良馬さん(37)の家族4人と数人の織り子さんで手掛けています。
武さんは主に糸の精錬と蒸気仕上げ、事務などを全体をまとめる役割をしています。住居を兼ねた大きな建物は反物や小物も直売もしていて、妻の律子さんが接客、販売をします。「お客さんとお茶を飲みながらおしゃべりするのが楽しみです」とほほ笑む律子さんですが、昔は来客が宿泊することも度々あったというから驚きです。お嫁に来る少し前に建てられたという工房は、趣がありホッと落ち着く雰囲気です。
カリナさんは小さなお子さんたちのママでもあります。デザイン、縦糸をそろえる整経、機織り担当です。8年前までは前進座の女優でしたが、アイルランドへ短期留学した際に現地の民族衣装に触れ、あらためて日本の着物の良さを実感したといいます。帰国してすぐに祖父が亡くなり、「ずっと当たり前に続いていくものだと思っていたけれど、続ける人がいないと途絶えてしまう」現実に直面し、紬の世界に入ることを決意したそう。両親や織り子さんに一から教わり、今では小岩井家に欠かせない存在です。
京都の問屋にはカリナさんオリジナルのブランドで反物を納品しています。その色彩のかわいさに乙女心がキュンとしました。「洋服のようにもっと気軽に遊び着感覚で着てもらいたい」とカリナさん。ハツラツとしてとってもおしゃれなお人柄そのままの紬だなぁと感じました。
そして長男の良馬さんはここでは一番の若手ですが、ゆったりと落ち着いています。デザインから織りまであらゆる業務をこなす工房の顔的存在です。こだわりを尋ねると、「上田紬らしさを追及したくて、草木染はリンゴ染に焦点を当てています」。リンゴ染は上田産リンゴの樹皮を使いますが、媒染剤や分量によってはさまざまな色がでます。とてもやさしい自然のグラデーションが魅力的です。
良馬さんはデザインも大事な要素だと言います。上田紬の伝統柄であるしまや格子柄を生かし、化学染料も使いながら現代的な配色やバランスを考えます。それは感覚的なもので、26歳から29歳まで過ごしたドイツでの3年間と、30歳で意識的に始めたバイオリンからも、良い影響を受けているとのことです。
若い姉弟の新しい発想と繊細な感性、そして父と母が2人を温かく支えている・・・。大家族連携し、伝統と斬新さが調和する、色とりどりのにぎやかな工房でした。
連絡先はTEL&FAX:0268-22-1927
▲転載ここまで
全文転載しました。上田紬の工房は上田市内に4つほどあるようですがそのうちの一つが小岩井紬工房さんです。
何度かお邪魔させていただいたことがありますが、工房の中は本当にとっても趣ある雰囲気です。
また、記事の中に登場している小岩井良馬さんはブログもやっていらっしゃってそこを見ると、様々なことに関わりながらお仕事をされているのがとってもすごいと思います。
小岩井紬工房
http://www13.ueda.ne.jp/~koiwai-tsumugi/
染織工房で働く若手職人のブログ
http://ameblo.jp/ueda-tsumugi/
(文:mitu)